計画研究

A04 現象モデル班

研究課題名
A04:大型プラント内の異常高温排熱塊の発生要因解明とモデル化
研究代表者
渡邉 智昭 名古屋大学 工学研究科・准教授
https://www.fdl.mae.nagoya-u.ac.jp

概要

大型プラント内の列をなした熱交換器において、想定外の高温排熱気塊が風下側の熱交換器や各種装置に吸い込まれる事による装置の性能低下を引き起こす Hot Air Recirculation (HAR) と呼ばれる現象が問題になっている。HAR発生予測を実現する上で、微気象(人工物や人間活動の影響を強く受ける地表付近の詳細気象)と線状に並んだ高排熱源上に生成される乱流渦構造が重要な役割を果たしていると考えられる。排熱源をモデル化した乱流の数値計算により、HAR現象の発生メカニズムと支配パラメータを明らかにするとともに、その発生を予測するために必要な情報の時空間スケールと精度を同定する。さらに、微気象予測シミュレーションのHAR予測結果をプラントにおける観測データや排熱源モデルの数値計算結果と比較することで、HAR予測が可能であるかを検証する。さらに微気象予測シミュレーションによるリアルタイムHAR予測システムの実証テストを行う。

学術的背景、研究課題の核心をなす学術的問い

天然ガス・石油・石化プラントでは、大量の熱を排出する熱交換器が長さ500mにも及ぶ列を成している。気象条件によっては、風上側の排熱が風下側の熱交換器や各種装置に吸い込まれる事で装置の性能低下を引き起こす Hot Air Recirculation (HAR) と呼ばれる現象が発生する(図1)。性能低下により緊急遮断システムが働き生産が中断されることを防ぐため、しばしば生産量を低めに抑えてプラントが運用される。HARに起因する生産量低下によって、全世界的に甚大な経済的損失がある。微気象予測情報に基づき各機器を最適に運用しつつ、全体の生産量を最大化できれば大きな波及効果が期待される。そのような最適運用の実現には、HAR発生メカニズムを解明した上で、それを微気象予測シミュレーションによりリアルタイムに予測する必要がある。

これまでに仮想プラントを対象としてHAR発生メカニズムの検討が行われてきた。本研究課題の連携機関である日揮グローバル社においても、乱流の数値計算の一つであるRANS (Reynolds-Averaged Navier-Stokes) モデルを用いた解析が行われている(図2)。一方で、計算機性能向上により一般化してきた LES (Large Eddy Simulation) による非定常解析を本課題の予備検討のため行ったところ、定常解析では見られない興味深い様相が見えてきた。

こうした社会的・学術的背景を顧み、本研究における【学術的な問い】を、(a) HAR発生を引き起こしうる高温領域の発生条件・維持機構は何か、(b) HAR現象を再現するために必要な微気象情報の時空間スケールと精度はどれだけか、(c) 微気象予測シミュレーションはその要件を満たしうるか、つまり微気象予測シミュレーションはHAR現象を再現可能か、の3点とする。

図1:Hot Air Recirculation の概略(日揮技術ジャーナル, Vol3, 2014)
図2:熱交換器列周りの流れの数値解析
(日揮技術ジャーナル, 2014)