科研費学術変革領域(B)「微気象制御学」プロジェクト(領域代表:大西領)

微気象予測の実現により社会に大きな変革をもたらすことを目指して、シミュレーションとデータ科学の融合技術の開発に取り組んでいます。

本プロジェクトでは、自律飛行ドローンなどが刻々と変化する環境に応じて様々なサービスを提供する未来都市の実現を想定しています。 そのような未来都市では、それら自律システム群へ微気象(人工物や人間活動の影響を強く受ける地表付近の詳細気象)予測情報が提供されるだけでなく、自律システム群が取得する大量のセンサー情報が予測に活用されるという双方向性によって、現実気象とサイバー気象の融合が実現されています。 当研究班では、その融合を実現するために、刻々と変化する社会と環境に適合しつつ、即時性(リアルタイム性)も兼ね備えた調和的予測シミュレーション技術を開発することを目的としています。 具体的には、超高密度観測による大量の環境センサー情報だけでなく人工排熱などの社会経済情報を、独自の分散型マルチスケールデータ同化法によりシミュレーションに融合することで適合性を持った予測を実現します。 さらに、AI技術と予測シミュレーション技術を融合する”超解像シミュレーション技術”により超高速に予測情報を創出できるリアルタイム微気象予測システムを実現することを目指しています。
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図1:代表者らが実施した建物解像・街区微気象シミュレーション結果の例。
東京駅周辺の気温の3次元分布が示されている。
関連動画を日本科学未来館で「東京ヒートアイランド」として常設展示中。

「微気象シミュレーションの未来活用」—DLab Future Techscapers(東工大未来社会DESIGN機構


NEDO「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト(ReAMo Project)」(JAXAからの再委託事業)

運航管理データを活用した高度なデータ提供機能の研究開発において、 低高度空域微気象の新たなシミュレーション&AI融合解析技術の開発に取り組んでいます。

ドローン運航管理システムに提供される現状のSDSP(Supplementary Data Service Provider)情報には含まれていないビル風などの突風情報は、将来の高密度なドローンの安全運航に欠かせない。 本研究室では、ドローン運航上の取得情報を活用した詳細分析技術を開発し、その有用性を確認する。 また、その分析におけるドローン運航情報フィードバックの有用性を明らかにする。 具体的には、「微気象制御学」プロジェクトで開発した、2D超解像技術、3D超解像技術および4D時空間同時超解像データ同化法(4D-SRDA; Four-dimensional Super-Resolution Data Assimilation)の低高度・都市微気象解析予測への応用を通して、 ドローンの安全運航に資する。 なお、超解像とは低解像度データを高解像度化するアップコンバージョン(upconversion)・ダウンスケーリング(downscaling)技術のことである。

仙台市に対する微気象(風況)予測情報の可視化例


SATREPS『スリランカにおける降雨による高速長距離土砂流動災害の早期警戒技術の開発』プロジェクト

斜面降雨の高精度予測の実現により安全な社会を実現することを目指して、シミュレーションとデータ科学の融合技術の開発に取り組んでいます。

本プロジェクトでは、東工大/JAMSTECが主となって開発を進めているマルチスケール大気海洋結合モデルMSSG(Multi-Scale Simulator for the Geoenvironment)を使った斜面降雨予測技術の開発を行っています。 これまでにMSSGに大気乱流の影響を考慮できる最新雲微物理パラメタリゼーション(Seifert & Onishi, 2016)を実装しました。 その最新雲微物理パラメタリゼーションを用いた降雨予測シミュレーションを,スリランカAranayakeに大雨をもたらした2016/5/15の事例,2017/5/23の事例に関して適用し,得られた数値予測降雨量をNBRO(スリランカ国土交通省)から提供された雨量データと比較した結果,大雨を再現できること,さらに大気乱流の影響を考慮することにより斜面降水量が増大されることを明らかにしました。 現在,高解像度(水平500m解像度)シミュレーションから得られた降雨マップを学習データとして,水平2km解像度の降雨予測結果を水平500mの高解像度予測結果にアップコンバート(超解像)する超解像器の開発に取り組んでいます。 これが開発されれば,スリランカの個別斜面を対象とした土砂災害のリアルタイム早期警戒情報を発出できるローカルな実装システムを低コストで構築できるようになります。 開発された降雨予測技術は世界各地に展開されることが期待されます。
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MSSGによる2016/5/17の日積算雨量結果。白クロスはスリランカAranakyake地域を示す。


Lagrangian Cloud Simulator (LCS)プロジェクト

雲粒一つ一つのミクロ物理を捉えた雲の丸ごとシミュレーション法の開発を目指して、精緻な大規模シミュレーション技術を開発しています。

豪雨によって毎年世界各地で多くの被害が発生しています。 その発生を予測できれば、安全安心な未来社会の実現に大きく近づきます。 そのために気象予測モデルの高精度化は欠かせません。 でも、それだけで良いでしょうか? そもそも豪雨をどのレベルで予測可能でしょうか? 発生時刻を±1分、発生中心を±100mで予測できるでしょうか? 残念ながら、現在の気象予測モデルでは、あまりにも経験パラメータが多いために、ある豪雨イベントの本質的な予測可能性を明らかにすることはできません。 しかし、強制的な避難までも視野に入れた予測情報を提供するためには、予測シミュレーションの精度とそのイベントの本質的な予測可能性を総合的に考慮した予測の信頼性情報(外れる可能性)も同時に提供する必要があります。 さもなくば、いくら詳細な豪雨予測情報であっても、狼少年になってしまうでしょう。 本プロジェクトでは、ラグランジアン追跡法を用いて雲粒一つ一つの物理を精緻に追跡計算することで、経験パラメータを可能な限り廃した雲シミュレーション法を開発しています(Onishi et al. 2012; Onishi et al., 2015; Kunishima & Onishi, 2018)。

全てのエアロゾル粒子の運動と成長を追跡し、微小水滴が生成し、雨粒までに成長し、降水粒子として地表に到達するまでの一連の過程を世界で初めて再現(Kunishima & Onishi, Atmos. Chem. Phys., 2018)