大規模数値シミュレーションによる混相乱流現象の解明

台風や梅雨時における集中豪雨、ダウンバーストや、都市型降雨など、局所的に激しい変化のある現象は、私たちの生活に直接深刻な影響を与えます。これらの現象を予測するためには、少なくとも、雲ひとつひとつの生成単位を扱えるような解像度(100m程度の解像度)が必要であるといわれています。TSUBAME、地球シミュレータ、京コンピュータ、富岳などのスーパーコンピュータによって、これらの現象を、現象をとりまくより広い領域のなかで、より厳密に扱うことのできる環境が整ってきました。積雲、積乱雲の生成や発達、維持などをより詳細に検討することで、私たちの社会生活に密接につながる気象、気候現象の予測精度向上に繋がることが期待できます。超高解像度シミュレーションは、格子サイズを小さくするだけでなく、格子のサイズに見合った詳細スケールの物理現象をどのように捉えるか、というモデルの研究開発が重要です。私たちのグループでは、特に乱流現象に着目して、新しい物理過程モデルの研究開発を進めています。

図1:海洋地球科学に見られる混相乱流、非平衡乱流現象

例えば、乱流中で慣性を持つ粒子がクラスターを形成する(つまり、偏在する)という現象は雲乱流中に見られる重要な現象です。コルモゴロフスケール(大気乱流では通常1mm程度)よりも微小な粒子の場合は、マイクロスケールのクラスタリングにより、粒子同士の衝突確率が顕著に増大されます。この増大効果は、雲粒子の衝突成長のモデリングや原始惑星系円盤中での微惑星形成モデリングにとって重要です。

このマイクロスケールクラスタリング現象に関して、例えば、大スケール流れが及ぼす影響、つまり、現象のレイノルズ(Re)数依存性を大規模数値計算によって世界で初めて明らかにしています。見出されたRe数依存性は、Re数が非常に大きい地球大気や、原始惑星系円盤内での微惑星形成過程を想定する場合には無視できないことを指摘するとともに、その発生メカニズムを解明しました。現象の発見、メカニズム解明に留まらず、このRe数依存性をモデル化し、新たな雲微物理モデルの開発に発展させることにより、基礎から応用研究までを一気通貫で成し遂げています。

予測モデルの高性能化だけでなく、現象の予測可能性についても興味を持って研究を進めています。気象シミュレーションの高解像度化が進めば単純に予測精度は向上するのだろうか、そもそも予測可能性の時空間限界を明らかにできるだろうか。そのような疑問を解決するために、粒子1粒1粒の位置、運動、相変化成長、さらに粒子同士の衝突成長までをもラグランジアン法で追跡計算するモデル(Lagrangian Cloud Simulator; LCS)を開発しています。これまでに、初期の粒子位置がわずかに異なることによるバルク統計量のゆらぎを定量化することに世界で初めて成功しています。さらに、全てのエアロゾル粒子の運動と成長を追跡し、微小水滴が生成し、雨粒までに成長し、降水粒子として地表に到達するまでの一連の過程を再現することにも世界で初めて成功しています(図2)。

大規模数値シミュレーションを用いた雲乱流研究の展望を日本流体力学会誌「ながれ」で紹介しています(pdf)。

全てのエアロゾル粒子の運動と成長を追跡し、微小水滴が生成し、雨粒までに成長し、降水粒子として地表に到達するまでの一連の過程を世界で初めて再現(Kunishima & Onishi, Atmos. Chem. Phys., 2018)